最近、ある雑誌で興味深い記事を見つけた。
「タイヤメーカーのミシュランがガイドブックを出すのはなぜか?」
知っている人は当然の話だろうが、恥ずかしながら自分はこの記事を読むまで知らなかった。トラック運送業界に身を置く者としては、ミシュランと言えば世界的なタイヤメーカーと思う一方、一般的には、「ミシュラン○○星」のように、レストランやホテルを評価するガイドブックの方がなじみ深いもしれない。自分のように知らない方のために、以下に記事を加工して引用する。
・・・ミシュランがレストランやホテルのガイドブックを出しているのは、もともと自動車旅行の文化習慣を広めるためだった。最初の発行は1900年。当時の自動車産業は、まだ量産化が始まる前で、自動車メーカーは小さな工房レベルの規模だった。そんな中、いち早くタイヤの量産を始めたミシュランは、フランス各地のおいしいレストランを紹介することで、まだ自動車の使い道を知らない人々に、自動車で旅行に出かけることの楽しさを伝え、自動車の販売、ひいてはタイヤの販売を増やそうとした・・・
なるほど。
以前のブログ、「テスラの驚異」の中で、「シリコンバレーのベンチャーは、具体的なプロダクトより、まず自分たちが社会の何を変えたいのか、どのような価値を生み出したいか、という抽象的な理念があって、そこからすべてのストーリーが始まる」と書いた。ミシュランの場合、タイヤという具体的なプロダクトが先行していたが、自動車旅行という文化・ライフスタイルを生み出すことで、自らの技術の結晶であるタイヤという商品の価値を世の人々に気付かせ、浸透させたのだった。
翻って、技術立国日本。戦後の日本の産業の柱である自動車と家電製品、その使い方はアメリカのライフスタイルのモデルがあったため、新たな文化・ライフスタイルを提案する必要がなく、商品の小型化や省エネ化など技術を磨くことに傾注。技術を磨くことで差別化を図り、そして世界一の技術を誇るようになった。
一方でそのために、新たな文化・ライフスタイル、今までにない全く新しい商品を創造して、社会を変える発想、新たな価値を生み出す思考が育まれなかったと言われる。イノベーションが起きにくい土壌だというわけだ。
生活が便利になる、生産性が向上する、そして世の中が良くなり、その結果社会全体が良くなる。すなわち、新たな文化が創られる。そうしたグランドデザイン(全体像)を顧客の立場から思考して描き、それを実現できる商品・サービスを創造し提供する。これこそがこれからの時代に求められるのだ。企業の本質は市場を創ること。新たな市場を創るには、技術(具体的なプロダクト)と文化(=抽象的な理念)の統合が必要となってくる。
中小物流企業を営む身としては、少々難易度の高い課題ではあるが、100年以上の前のミシュランの取り組みを知って、今後の何かのヒントになるのではと、この場を利用して書き留める。
ちなみに、先日社長職を後進に譲ると発表した日産自動車のゴーン氏は、もともとミシュラン出身。これも有名の話だろうが、恥ずかしながらこの事実を知ったのも最近のことである。