東京都トラック協会青年部海外研修視察レポート
(ベトナムホーチミンの物流事情等に学ぶ)
1.研修の目的
平成29年11月15日から18日まで、東ト協青年部の海外研修を開催した。この海外研修は2年に1度のペースで開催している事業であり、今回の行き先はベトナム南部の都市ホーチミン。
海外研修には大きく2つの意義がある。一つ目は、日本との「違い」を知る、感じること。これは物流事情に限らない。その国の文化・言語・宗教から、生活スタイル・ビジネスに至る様々な「違い」を知り感じることで気づきが増え、視野が広がる。経営者にとって必要不可欠な要素だ。
二つ目は、参加者との親睦。仲良くなることだ。寝食を共にし、数日間同じ時間を共有していく過程で芽生える仲間意識・絆。業界の次世代を担い、荷主業界や都民国民に対して我々の事業の社会的意義を発信していく、その原動力となるのは青年経営者の結束力だ。
この二つの大義を胸に、総勢19名の志あるメンバーでの船出となった。
(ホーチミン市内、統一会堂前にて。) |
2.ベトナムホーチミン
ところで、なぜ今回の行き先がホーチミンになったかの説明が必要だろう。その理由はいろいろあるが、まずは現場に近い青年経営者にとって、時間的にも経済的にも余裕のない中で、東南アジアは比較的安く短時間で行けること、その中でベトナムという国は、国民の平均年齢が29歳という(ちなみに日本は46歳)若さが溢れ、そして社会主義国家ながら市場経済導入し、日系企業を含めた海外からの投資・進出が進んで経済発展著しい熱気に溢れる国ということで、この若さと熱さを直接肌で実感したいという思いから、ベトナムホーチミンとした。
近年では大企業メーカー系の工場投資のみならず、ビジネスホテルやコンビニ、ガソリンスタンド、我々と同業であるヤマト運輸がクール宅急便のサービスを開始するなど、流通小売・サービス業、そして中堅企業の進出が特徴だ。
(結団式は、現地に着いてから朝食フォーを食べながら。) |
3.圧倒された交通量
到着してまず驚いたのは、市内の交通状況だ。聞きしにまさる現状を見て唖然とした。公共交通機関がなく、現地の人々の生活の足はバイク。道路を埋め尽くすように走るバイクを縫うように我々のチャーターバスが進む。経済発展にインフラ整備が追いついていない。トラックも流入規制があり、市内に入れない時間帯もあり、物流効率化の障害となっている。
(ホーチミン市内の交通事情。信号のない交差点も多い。) |
4.カイメップチーバイ港
最初に視察したのは、ホーチミン南部の港湾施設、カイメップチーバイ港。日本政府のODA支援金で開発された、日本との友好関係を象徴する港だ。ベトナム全土で第5番の貨物取扱い規模があり、水深があるため大きなコンテナ船の接岸が可能。アジア中心だがアメリカ東海岸向け貨物も取り扱う。日本には週2便行くようだ。旅客船も立ち寄る。
国内貨物において陸送は少なく、貨物の80%はこの港で小さなコンテナ船に乗せ替えて川を上り、内陸の港に輸送する。メコンデルタからカンボジアまでをその輸送エリアとしているが、国際的な競争力としては近隣諸国のマレーシア・シンガポール・香港に水を空けられているようだ。日本の商船三井を含めた外資との合弁会社を作り、ルート開拓で貨物量を増やしていきたいとのことだ。
従業員数は155名、24時間365日稼働。事務所は8時間交替、オペレーションは6時間交替で対応している。
(7機の大型クレーンを配備、内3機は追加で設置された。) |
(小型の内航船にコンテナを積み替え、内陸の港に運ぶ。) |
5.ロジテムベトナム
二日目。東京都トラック協会の会員企業、日本ロジテムさんの現地法人を視察。1994年に設立し、日系企業の中でも早い段階での進出。旅客運送と国内貨物運送事業を柱に事業を展開し、特に旅客事業の「運転手付きレンタカー」が最も認知されている。まさにベトナムの交通事情から顧客のニーズを掴んだサービスだ。
国内貨物運送では、ベトナム北部にある首都ハノイからタイの首都バンコクを結ぶ東西経済回廊を物流網として中継輸送を行う他、ハノイとホーチミンを結ぶ国道1号線を利用して国内の物流を支えている。車両はおおよそ400台。
倉庫は約16万㎡を保有し、家電やバイクなど日系企業の製品を主に保管。また2015年には、クールジャパン機構(官民ファンド)と川崎汽船で合弁会社を設立(CLK)、細かい温度帯に対応した冷蔵・冷凍倉庫を増設した。今後の国内ニーズを見越しての投資である。
ベトナムの人件費は年々上昇しているものの(近年では5%程のベアアップ)、運収に占める人件費の割合が10%程で(ちなみに燃料費は約40%、日本と逆の構造である!)、若く安価な労働力が確保しやすい。教育面などまだ行き届かない部分が多くあり、先に記した交通事情もあり、日本と同等のサービスを提供し難しい環境であるが、説明していただいた支店長の難波氏は「あくまでも日本と同品質を目指す」という将来ビジョンを掲げていた。
この日の夜、難波支店長と石塚社長同席で懇親会を開催。親睦を深める中で難波支店長が大の虎党であることを知って、とても親近感を感じた。
(ロジテムの石塚社長、難波支店長を囲んで) |
6.佐川急便ベトナム
午後は、ホーチミン郊外にあるドンナイ省の工業団地に位置する倉庫、ニョンチャックを視察。昨年に新設した新倉庫。初日に視察したカイメップチーバイ港、2025年頃開港予定のロンタイン国際空港近郊に立地する当倉庫は、保税倉庫も有する他、ベトナム宅配大手を買収して宅配事業の国内シェアNO1を目指す戦略的拠点。保冷配送サービス(クール宅配便)はベトナム初であり、冷蔵・冷凍倉庫も完備していた。
社会主義国家という理由からか分からないが、投資法という規制で100%資本が認められず、合弁会社の形態。佐川急便ベトナム(SEV)、SG佐川ベトナム(SGV)、SG佐川急便ベトナム(SGEV)の3社がベトナム事業全体を担っているが、規制緩和により近く3社が統合する見込みとのこと。3社で約2000人の従業員を抱えている。1997年に進出している、日系企業の中でも代表的な先駆者だ。
(日本からのお土産。) |
7.矢崎総業ベトナム
研修最終日。最後の視察は矢崎総業ベトナム。主にワイヤーハーネス(電気回路)を製造する工場。矢崎総業としては、ベトナム国内の5大都市(ハノイ、ハイフォン、ダナン、ホーチミン、あと一つは聞きそびれた…)に各々工場を持ち、ホーチミンにある工場に訪れた。
敷地面積160M×100Mの16,000㎡に32コンベア(ライン)有する大規模な工場で、トヨタ・スズキ・マツダを中心に日系自動車メーカー向け製品を製造。なんといっても驚くべきはそこで働く従業員。その大半が女性でしかも20代。最近は男性も増えてきているようだが、若い女性作業員が目立っていた。ワイヤーハネースの1ユニットを製造するにはきめ細かな作業が必要。人間系の作業が多く、自動化するにはまだ時間がかかる印象。ベトナム国内で働く矢崎総業の従業員は12,000人。この工場を日本で稼働させたら、どのくらいのコスト増になるか。矢崎総業の世界戦略の一端を実感した。
従業員満足度を高める活動も積極的。QC活動はベトナム国内での大会が開催され、高評価を受けると本社(日本)で開催される大会にも出場できる。また「お祝い活動」と称する従業員を表彰する様々な活動を展開、従業員の家族を含めたイベントも多く開催している。縫製業が盛んなホーチミンでは、そちらに人材が流出するリスクもあるため、人材の囲い込みとしての意味合いもあるようだ。
(基本、工場内は撮影禁止のはずだったが…) |
8.研修を終えて
3泊5日の過密スケジュールを終え、充実感に浸りながら報告書を作成している。この過密さも青年部ならではだろう。参加した方々には少々迷惑をかけたかもしれないが、途中離団する人もなく、参加者同士で親睦を深められたという意味でも、素晴らしい研修視察であったと思う。この思いを、少しでも青年部会員に伝えていかなくてはならない。
ベトナムという国は、過去多くの苦難な道のりを歩んできた歴史がある。戦前のフランス植民地時代、第二次大戦中の日本軍の進駐、戦後の独立と1960年から始まる冷戦の代理戦争である南北に分かれての戦争(ベトナム戦争)。特にベトナム戦争の際、アメリカの本格介入で用いられた通称「枯れ葉剤」による影響で、現在でもその後遺症に悩む人々がいる。
研修初日の午後、ホーチミン市内観光の中で、戦争証跡博物館を訪れた。観光客で賑わう傍らで、枯れ葉剤の影響で身体に障害を持つ5~6人の人々が、その博物館の入り口左横に陣を取り、ピアノを弾いたり互いにおしゃべりをしていた(といってもまともに会話ができる状況ではない)。戦争の悲惨さを象徴する空間であった。戦争への憎しみが沸いてきたと同時に、あらためて戦争のない平和な世の中への思いを強くした。
日系企業・物流企業を中心に視察する一方、歴史、特に戦争の悲惨さに触れる機会となった今回のベトナム海外研修。短くも充実した内容の濃いものであった。大げさかもしれないが、今回の貴重な経験をなにかしらの形にして、社業発展、業界発展に繋げていかなければならない、帰国してなお身の引き締まる思いである。
(サイゴン大教会前で。) |