まわりくどい言い方になるが、「4で割り切れない偶数の西暦年」は、冬のオリンピック・パラリンピック、そしてサッカーワールドカップの開催年になる。今年は2018年。平昌(ピョンチャン)五輪は先日始まり、ロシアW杯は6月に開催する。
平昌は本当に寒いようだ。高地に位置し、韓国国内でも有数の寒冷地とのこと。テレビを見てもその寒さは伝わる。しかし競技が始まれば熱気の渦が巻き、その寒さを吹き飛ばす。
先日、スキージャンプ女子ノーマルヒルを自宅で観戦した。全選手35名のエントリーの内、金メダル期待の高梨沙羅選手を始め日本人選手は4名のエントリー。
テレビを見ていると、試合をするには相当過酷な環境だった。雪は舞い、風向きは頻繁に変わる。ジャンプは向かい風時が選手にとって距離が出せ、追い風時は不利になる。競技の公平性の観点から、追い風時には風向きが変わるのを待ち、もしくは滑走を始めるポイントをずらす(より後方にする)ことで滑走スピードを速めるなど、運営側も様々な工夫を凝らす。
前回のソチ大会、優勝候補筆頭だった高梨選手が4位になった後の悔し涙のインタビューは覚えている人も多いだろう。当時17歳の高梨選手に対し、試合後のインタビューを行ったNHKベテランアナウンサー工藤三郎氏の対応、多くを語らずに「よく頑張りました」という言葉のみ発したあの配慮の姿勢は、当時日本国民の賞賛を浴びたことも広く知られている。
スキージャンプ女子の競技の歴史は浅い。オリンピックの正式種目になったのは、前回のソチ大会から。競技人口が少ないことからバンクーバー五輪(ソチの前、2010年)では競技種目から見送られることとなった経緯がある。近年ではオーストリアなどが選手の強化に乗り出しているようだが、まだまだ発展途上の競技だ。
そんな中、高梨選手は早咲きで、10代半ばから一線級の選手として活躍してきた。ソチでも優勝候補筆頭。それからの4年間も常に追われる立場で女子スキージャンプ界を牽引してきた。
今シーズンの高梨は不調が伝えられていた。国際ツアーでの勝利はなく、全盛期は過ぎたとの声も聞かれるようになった。平昌五輪直前には、大舞台には弱いという酷評までささやかれた。
しかし、今回の平昌五輪の一部始終を見て、素人の自分でもいろいろと分かったような気がした(これは原田雅彦氏の丁寧な解説によるものが大きいが)。
競技として成熟していない、競技人口の少ない段階においては、急激に力を付け頭角を現す選手が出てくる例がある。運命的なコーチとの出会いや、他の選手のマネをしたら急激にパフォーマンスが上がった、など。
原田氏曰く、高梨選手が今シーズン不調であったわけではなく、周りの選手が急激に力を付けてきたということらしい。
一方で、スキージャンプという競技は、精神面も大きく左右する。ライバルが突如として現れたら、今までと同じような精神状態をキープすることが困難になるのは当然だ。
前回大会のリベンジ、ライバルの台頭からの焦り、そして当日の過酷な環境。そんな中、1回目に3位につけた高梨選手は、運命の2回目をいつもと同じスタイルで宙に舞った。
着時後にすぐにガッツポーズ。そして涙が自然と溢れた。満足のジャンプが出来たのだろう。この時点で暫定1位。その後今期急成長を遂げた残りの2名に上位を奪われ、結果として第3位、銅メダルとなった。
試合後のインタビュー。涙があった。悔しい気持ちもあるかもしれない。あくまでも金メダルが目標だった。それでも今回は満足のいくジャンプができた。前回とは違う。そしてなによりも自分の成長が実感できた嬉しさ、そしてその成長をサポートしてくれた周りの人への感謝。喜びと感謝とプレッシャーからの解放と。4年前と重ね合わせると、涙の意味の違いがよくわかった。
4で割り切れない偶数の西暦年。今年も楽しみな1年だ。
厄年であることを忘れさせてくれる。