運送会社社長の友人から、毎年年末に翌年のカレンダーが送られてくる。日めくりカレンダーならぬ「月めくり」カレンダー。毎月、「今月の指針」と題して、人生の格言が大きく書かれているので、室内に掲示して毎朝目を通すようにしている。ちなみに2023年5月の「今月の指針」は、
【注意されることを嫌がる人は成長の機会を自ら閉ざしている】
人は永年同じ組織やポジションにいると、どうしても謙虚さを失いがちとなる。自分自身のことは自分がよく知っていると思いがちだが、周りの人たちからすると、その映り方は自分の思うものと違うかもしれない。ところが、人の注意を喜んで素直に聞くことは自尊心や虚栄心が邪魔してなかなか難しいこと。だからこそその事実、つまりは「自分は他人の言うことを素直に聞けない性格だ」と自覚することから始め、そして最初は腹が立っても、それは自分の成長の機会だと捉え、向上心を持って人と接するべし。そのような意味だと解説があった。
ところで、今年のNHK大河ドラマ「どうする家康」。タイトルがユニークだ。昭和や平成の頃であれば、単に「徳川家康」とか「家康」がそのタイトルとなろう。過去に何度か家康が主人公として描かれたことがあるという理由もあろうが、この「どうする」という言葉に、今回のドラマの伝えたいメッセージが隠されている。
言わずと知れた戦国時代の覇者、徳川家康。関ヶ原で大勝後、江戸に幕府を開き、その後260有余年続く江戸時代の基礎を築いた人物。しかしその生涯は波乱万丈で、幼少時代の人質生活、桶狭間の合戦後今川家から織田家への鞍替え、信長との主従関係、武田信玄との争いに迷うも結果戦って大敗、妻と長男の処刑を命じ、本能寺の変直後の決死の伊賀越え、秀吉とは抗争の後服従、小田原開城後江戸への左遷命令、大阪冬の陣であわやの敗戦など、その死後こそ「大権現様」と崇められているが(一方で秀吉の「さる」に対して「たぬき」との愛称で今は親しまれる)、まさにその時々に様々な選択をせまられた、決断力の人。決断には材料や基準がなく(判断には材料や基準がある)、何が正しい決断か分からない中で、決断を積み重ねてその未来を切り開いてきた。「どうする」とは、そんな家康の心の迷いの上の決断、選択した道に対しての自らの責任のあり方を、作品の中で見出してほしいという、制作側の意図を感じる。
ドラマを観ていると、松本潤さん演じる徳川家康が、家臣や家族に諫められ、また岡田准一さん演じる織田信長に罵られ、迷い悩む姿が多い。「どうする」が表現されている。これらの諫言や罵声を素直に受け入れられない部分もドラマでは描かれているが、その後の成功を考えると、結果的に諫言や罵声は若かりし家康にとって、大変ありがたいものだったのかもしれない。表面的には嫌がっているが、実は自分の足りなさを自覚した上でこのような諫言や罵声をしっかり受け入れていたのだろう。
自らは良かれと思って行っていることを、注意されたり否定されたりすることはままある。そこで、自尊心とか虚栄心とかを捨てて、一歩立ち止まって自らを俯瞰できるようになれば、その諫言は自らにとって大きな成長の礎になるかもしれない。この姿勢を謙虚というのか。
月めくりカレンダーしかり、大河ドラマしかり。気づきは周りにゴロゴロ転がっている。